ストールを選ぶとき、多くの方はパッと見のデザインから、自分の好みか?あの洋服に合うかな?という感じで選ぶのではないでしょうか?
もちろん見た目も大切ですが、やはり肌に触れるものですし、自分がまとうものの見識を少し持って頂きたいと思い、スカーフやストールに多く用いられている生地と絽紗のストールの「違い」について、ご紹介したいと思います。
なおここでは、あくまで同じシルク素材のスカーフやストール(海外ブランドなど)のものと比較してみます。織り方が違えば、それぞれ良し悪しがありますので特長が分かるようにしつつ、絽紗の魅力をお伝えしたいと思います。
まず、スカーフやストールで多く用いられているものは以下があります。
- 重厚感のツイル
- ナチュラルなシフォン
- 軽やかなオーガンジー
- 艶やかなサテン
そして、絽紗の絽や紗や紋紗を合わせてご紹介します。
見た目の違い
ツイル
主にスカーフに用いられており、光沢感があり、しなやかで厚みのある生地です。重厚感があるため、高級感が生まれます。ただ透け感はありません。
シフォン
表面に軽くシワがよったような表情があり、上品でおとなしい印象を生みます。細い糸を使っているため、とても軽やかです、生地のハリ感は強くないため、ボリューム感は演出しづらいです。
オーガンジーとサテン
オーガンジーは透け感があり、サテン部分は光沢がありますが、糸密度が高いためあまり透けません。シフォン同様に細い糸を使っているため、とても軽やかですが、生地のハリ感は強くないため、ボリューム感は演出しづらいです。
※今回は、3のオーガンジーと4のサテンが一緒になったストールでご紹介します。
絽紗の絽
清涼感がありながら、光沢(マットなものもあります)と優しい肌触り、なめらかなドレープ感を併せ持つのが特徴です。
絽紗の紗
軽やかさと透明感がありながらも、生地のハリを共存させて立体感をだせるのが特徴です。
絽紗の紋紗
織り柄が織り込まれていながらも、透け感もあり、光沢もあり、ハリもあるので、高級感がうまれます。
生地アップの違い
ツイル
「綾織」という織り方で織られています。特徴は、生地の表面にななめの畝が規則的に並んでいます。これは綾織が、光沢を出すために、シルクのたて糸を表面に多く出すようにしているからです。密度が高いため透けません。その代わり厚みのある生地は適度にハリがあり滑らかで高級感を感じさせます。生地が固いため、スカーフ(四角形)として用いられるのが多く、長方形のストールなどでは用いられることは少ないと思います。
シフォン
たて糸、よこ糸に強撚糸が用いられた平織の生地。強撚糸により表面にシワがよったような表情がみられます。たて糸、よこ糸に細い糸が用いて織ります。その為、薄くて軽やかな生地になります。ただ、細い糸を使うということは、生地にハリを出しづらく立体感やボリューム感を出すことには長けていません。表面には凹凸があり、肌に密着しづらい為、サラッとした肌触りも特徴です。
オーガンジー(写真左側の方)とサテン(写真右側の方)
オーガンジーは平織の薄く軽い生地を言います。シフォン同様にたて糸、よこ糸に細い糸を用いて織っていきます。ただ、糸に強撚糸を使わない為、シワのよったような表情はありません。糸の織目の大きさは0.1mm~0.3mmぐらいで、透け感は糸の細さにより、産み出すといっていいでしょう。
サテンの方は、朱子織という織り方で、柔らかさと光沢がうまれます。朱子織は、たて糸を表に多くだすようにしてシルクの光沢を引き出しています。
オーガンジーもサテンも細い糸を使うということは、生地にハリを出しづらく立体感を出すことには長けていません。
※一般的な織組織の観点から言うと、光沢を出すのは、平織<綾織<朱子織の順です。「たて糸を多く表に出す=シルクの光沢と艶やかさが表にでる」とイメージしてもらうと良いかもしれません。布の強度という点では、朱子織<綾織<平織の順となります。
絽紗の生地(絽、紗、紋紗
まず、前提として絽紗の絽や紗や紋紗と、ツイル、シフォン、オーガンジー、サテンなどとの違いは、絽紗は「着物由来の生地である」ということです。
それが何かというと、女性が着物を着て歩くときの所作をイメージしてみてください。裾捌きが良いといった表現があるように生地にハリがありしなやかに戻ります。その良さをストール生地に落とし込みました。
では、具体的に何が違うかというと、使う糸の太さと強さです。透け感の強い、シフォン、オーガンジーと比べて、糸の1本の太さは、3倍以上はあるのではないでしょうか?といっても一般的にみればすごく細い糸です。
ただ、糸を太くすると一般的には、固い、厚い、重い、生地になります。これを絽や紗という「からみ織」によって粗く織っていきます。からみ織で目を空けることで(約1mmくらい目があいています)、軽さと透け感が生まれます。それでいて、糸が強くハリがあり立体感がだせる生地になります。
透け感の強い織物の弱点は、強度と引っかかりやすさにあります。「目が開いている=清涼感が生まれる=引っかかりやすい」となります。ただ強度については「からみ織」で糸のズレを抑えこんで行きます。(完全に目ズレしなくなるわけではありません)これは、QAの絽と紗の違いについてを参照ください。
ただ清涼感と引っかかりやすさは半比例するもので、両方を追及することは難しいです。その為、絽紗では、目の大きさと使いやすさ、美しさなどのバランスを追及をしています。
また、ハリを持たせるのは糸の太さの違いだけではありません。織る時にたて糸に強いテンションをかけてしっかり織ることも絽紗の生地を生みだすポイントです。ゆるい状態で織ると締まりのない織物になってしまいます。特に夏のきものはシャリ感という表現があるように軽やかだけど安っぽくない、というのが重要な要素です。このような細かい点で着物の美学が織り成されています。
縫製について
次に縫製を見ていきます。絽紗では美しい布を追及していますので、その点も知って頂きたいと思います。
ただ、これはあくまで今回比較した他のストールで全てに当てはまるものではありません。
ツイルなどのスカーフ
スカーフは一般的に4編を縫製しています。縫製の仕方もコロンとしたふくらみを持つ手巻き、手巻きのようなミシンの千鳥巻き、などが一般的と思います。先にプリントしてからカットして縫製するのがほとんどと思います。こちらは某フランスの有名メゾンの高級スカーフですのできれいな手巻きが施されています。
シフォン、オーガンジー、サテンなどのストール
生地に限らず、薄手素材のスカーフやストールでデザインが入ったものはプリントしてからカットして縫製しています。このシフォンのストールのように縫製部分の色が違うのはお洒落ですよね。これは縫製部分を設計したうえでプリントデザインを決めています。よって縫製する際に色が違っているので、巻かれた部分が色が異なります。
長方形のストールでも4辺が縫われています。大きな布を裁断しながら形にしていくことが多い為です。
製造者の観点からすれば、少しでも原価を抑えることができれば、価格を抑えてお客様にご提供できますので、色々と工夫します。例えば、横幅1m50cmの布があれば、幅50cmで3枚にカットできます。プリントするときにカットする場所を分かるようにしプリントすることで、裁断も楽になります。生産効率をあげ量産しているのだと思います。
絽紗のストール
絽紗では縫製の方法は他のストールと違いはありません。千鳥巻きというミシン縫製です。
ただ、美しい布を追及する中で、大きく違う点としては、
・2辺しか縫わない
・縫製した糸も染まる
ということです。(上記は全てではありません、例外のものもあります)
※一般的にスカーフやストールの縫製ランクとしては、三巻<千鳥巻き<手巻き と言われています。ただ絽紗のような繊細な生地に手巻きをすると、膨れた感じになり美しくありませんので、千鳥巻きを採用しています。
2辺しか縫わない
生地と染を一体化した美しい布になる為に、ストールでいうと長方形の長い辺の部分を縫いません。これにより染めた時に縫製部分がなく、凹凸も感じさせない、染が隅々までいきわたった、生地と染が一体化した美しい布になる、と考えています。
絽紗では作りたいストールの幅に合わせて反物を作ります。(そもそも着物や法衣の織機を使っていて、幅の広い生地をつくることが出来ません。)
また近代的な高速織機(レピア織機や、エアジェット織機など)ではなく、古くからのシャトル織機で織ります。その為、生地の両端にミミという部分を作ることができます。このミミを僅か1mm程度にすることで、糸ほつれもなくし、美しい布のバランスをとっています。(写真下は縫製していません)
※絽紗のストールの中には、強撚糸を使い生地を収縮させたものなど4辺縫製しているものもあります。
縫製した糸も染まる
絽紗のストールの中には、先に縫製しストールの形にしてから職人が手染めするものが多くあります。この時、縫製はシルクの糸で縫製していますので、染めた時に糸も染まります。プリントしてから縫製するとどうしてもデザイン部分と縫製糸でアンバランスが生じることがあります。美しい布を目指すために、縫製した糸まで染めてしまう、ということをしています。
※反物で染めて必要な長さでカットし縫製したストールにするものもあります。
おさらい
同じシルク素材のストールと比較してみましたが違いは分かりましたでしょうか?
- 今までのストール素材にはなかった、清涼感や透明感と、生地のハリを併せ持つ。
- 美しい一枚の布を目指した細部に神を宿すこだわり
- 清涼感を出す為に目をあけているので引っかかりやすい。
ただ、何事も一長一短あるので、弱みを補う「強み」で美しい布を追及することを優先している。