このページは、「絽(ろ)と紗(しゃ)について詳しく知りたい」という方むけに、日本三大白生地産地のひとつ新潟県五泉市で100年以上続く絹織物工場が絽と紗について深く正しくお伝えします。
[目次]
- 目標
- 絽と紗とは?
- 絽と紗はどんな織物
- 絽と紗の違いは?
- 絽と紗の種類は?
- 紋紗とは?
- 着物での着装時期やシーンは?
- 羅(ら)とは?
- 模紗(もしゃ)・疑紗(ぎしゃ)とは?
- 新しいストールの絽と紗とは?
- 絽と紗にふれたい
- よく分からなかった時の相談窓口
1.目標
絽と紗の違いを聞かれても自信満々にこたえれる!!
まず、わたしたちの紹介をさせてください。
- 日本三大白生地産地のひとつ新潟県五泉市で100年続く絹織物工場である横正機業場です。
- 「白生地(しろきじ)」という染める前の白い正絹の反物のみを織っています。
- 令和の大嘗祭で神様の衣として用いられた特別な絹織物:繒服(にぎたえ)を織らせて頂きました。
2.絽とは? 紗とは?
絽、紗とは夏の着物や僧侶の衣として用いられている織物の種類の名前です。
絽(ろ)、紗(しゃ)と読みます。紗は「さ」ではありません。
着物では、薄物、夏物などともいい、主に7月8月の盛夏を中心に、6月から9月ごろまで着るものとされています。
からみ織(もじり織)という技法で織られ、生地に目が開いており通気性がよいのが特徴です。
「よく目が空いているから紗」などと勘違い、見間違いされる方もいますが、目を開けるための方法が異なります。(後述します)
絽や紗は織物の種類なので、着物だけでなく、帯、襦袢、衿、羽織、、等々です。
よって、絽=着物と思う方もいらっしゃいますが、絽の着物、絽の帯、絽の衿などと言うのが良いと思います。
私たちは和装向けの生地を織っていますが、異なる業界でも用いられています(例えば紗の蚊帳など)。
また、素材は色々です。
正絹(絹100%)もあれば、綿の絽も、ポリエステルの絽もあります。
最近はお坊さんも化学繊維の紗の法衣をまといます。
「絽」「紗」という言葉だけでなく、素材もきちんと確認しましょう。
では、絽と紗についてもう少し掘り下げていきましょう!
まずは外見の違いから
(質問の多い、絽から記載します)
絽とは
夏の正装着(フォーマル)にも使われる夏物生地の王道とも言えるでしょう。
紗の変形として生まれた織り方(紗の方が歴史が古い)で、奇数のよこ糸ごとに経糸をからめて織り、定期的に隙間をつくった生地です。途中に平織りが入るため、紗よりも透ける部分が少なくなります。
<種類>平絽(ひらろ)、駒絽(こまろ)、経絽(たてろ)、帯絽(おびろ)、絽衿(ろえり)、紋絽(もんろ)
<主な用途> 夏の着物(留袖・訪問着・付下げ・小紋・長襦袢・衿 等)、夏の染帯
紗とは
絽よりも透明感と清涼感に溢れ、通気性が高い生地です。
すき間が全体に同じ間隔で空いています。
夏の羽織や、お坊さんがまとっていたりするのを目にすると思います。
また、絽の生地の上に紗を重ねる紗袷せ(しゃあわせ)や、二重紗・紗無双 といい紗と紗を重ね合わせたりして、下の柄を上の無地の紗から透かせて生地と生地の触れ合いや陰影、木目調のモアレを楽しむ洒落着として用いられる事も多いです。
なお、「紗が、かかったような」という、ぼやっとしたことを表す表現にも使います。
<種類> 駒紗(こましゃ)、平紗(ひらしゃ)、紋紗(もんしゃ)
<主な用途> 夏の着物・羽織・コート
違いは分かりましたでしょうか?
以下簡単にまとめます。
両方に言えること
- からみ織りで織られていて目が開いており通気性に優れている。
見た目の違い
- 絽は定期的(一定間隔)に目が開いている
- 紗は全体に目が開いている。
用途の違い
- 絽はフォーマル
- 紗はカジュアルからセミフォーマル
※本来、格という点では紋の有無や種類とも思いますが、ここでは一般的な解釈として。
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- さらに、よこ糸を濡らして織る五泉の伝統技法「濡れ緯(ぬれよこ)」により生地密度が高めしなやかさも耐久性もアップ。
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私たちは、生産が激減している絽と紗の新しい可能性を追求するために「絽紗」というブランドを始めました。ほとんど着物としてしか用いられなかった絽が、生活を豊かにしたり悩みを解決してくれる身近な商品になれたことを誇りに思っています。
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以下、本題に戻ります。
3.絽と紗はどんな織物?
次に絽と紗を他の薄い織物と比較してみます。
外見の違いは、生地に隙間があいていて清涼感を感じさせるもの、と書きました。
では、この目が開いている部分、どうなっているのでしょうか?たて糸の間隔、よこ糸の間隔を粗くしているのでしょうか?
いいえ、絽と紗は違うのです。
絽と紗は、からみ織(もじり織)という特殊な織り方で、隙間をあけているのです。
からみ織りの説明
まず、紗の組織図をみてください。(今度はわかりやすく紗から説明します)
ポイント
からみ織は、となりあうたて糸をねじることで、隙間を作っていく織り方です。
たて糸をねじるとどうなるの?
となり合うたて糸をねじると、糸が交差している部分ができます。
そうすると、次のよこ糸を入れて、よこ糸とよこ糸をくっつけようとしても、交差している部分にぶつかり、よこ糸どうしは密着しません。
つまり、よこ糸どうしは絶対にくっつかず、距離ができるのです。(なんと切ない・・・)
これが、からみ織による目の開け方です。
もしお近くにガーゼなど目の粗い織物などがあったら見たり触ってみてください。
糸が不均一に並んでいますし、さわると簡単に目がずれます。
これは、平織(ひらおり)という織り方で、よこ糸の間隔を粗くしているだけなのです。
紗は、着るものにも使うので強い織物でなければならず、よこ糸をしっかり打ち込みます。
しかし、たて糸を交差させた部分で糸がつまらず、いやがおうにも目が開いてしまうのです。(ココ重要)
つまり、同じ仕組みで目が開くので、隙間が均一に揃ってあきます。
[実際の拡大写真]
ねじっている部分が邪魔して、よこ糸どうしがくっつかなくなっているのです。(うまく拡大写真が取れずすみません)
今度は絽の組織図を見てください。
絽は一定の間隔で目が開いた織物です。
紗が細かい柄を染めるのに向かず、絽が生まれてきたと説明しました。
すなわち、紗の目の空いているところに平らな部分を作っているのが絽です。
上記組織図のように途中に平織(例えば羽二重)という平らな部分をいれています。
[実際の拡大写真]
4.絽と紗の違い
わかりやすく言えば、
- 紗はよこ糸一本ごとに、たて糸をねじる
- 絽は、一回ねじってから、途中に平織をいれて、またねじる。
これだけです。
ねじる間隔の違いで、絽と紗に分かれます。
なぜ、絽は途中に平らな部分をつくるの?
これは、細かい柄を描けるようにするためと思われます。
諸説あるようですが、紗は平安時代、絽は江戸時代に生まれた織物と言われています。
江戸時代に染色技術が発展した時に、紗は精緻な柄を美しく染めるのがむずかしく、途中に平織りをいれた絽が生まれ、絽が留袖、訪問着、付下げ、小紋といった正装にも使われる夏の定番になったとされます。
着物では紋を入れるなどフォーマルの席に多く用いられ、絽目の整然さが凛とした美しさをうみます。
豪華絢爛な染めが主役の着物にあっては絽の方が重宝されたのだと推察されます。
ここから少しツウな領域に入っていきます。
5.絽と紗の種類は?
一口に絽と紗といっても、私たちのような織物工場においては様々な種類の絽や紗をおります。
絽の呼びかた
よく○本絽などといいますが、これは、途中に平織りをいれるよこ糸の本数で呼び名が変わります。
3本絽(3越 みこし)
よこ糸3本平織りをして、絽目をつくる。
5本絽(5越 いつこし)
よこ糸5本平織りをして、絽目をつくる。
13本絽(13越)
この絽目を作る間隔で、清涼感の違いが生まれます。
帯に使う絽などでは13本絽になるなど、ほとんどが平織り、ところどころ絽目があく、というようになります。
乱絽(らんろ)
絽目を不規則につくるもの。
例えば、平織3回、絽目、平織5回、絽目、平織7回、絽目など。(写真後日アップ予定)
また、絽目(すき間)をつくる方向を、よこ方向ではなくたて糸方向にかえると呼び名も変わります。
経絽(たてろ)
よこ糸方向に隙間をつくるのではなく、たて糸方向に隙間をつくります。
絽目をどのように作るかで、見た目や用途が変わってくるのです。
[豆知識]
なお、この〇本絽というの〇の数は必ず奇数になります。
なぜなら、ねじったたて糸をまたねじり戻す場合、平織り部分が奇数回でないと、たて糸・よこ糸の上下関係がうまくいかない為です。
絽の種類
使う糸の撚糸などの種類によって呼び方も分かれます。
例えば着物では
駒絽(こまろ)
駒糸(撚糸の種類)をつかったものです。
サラッとして女性らしいしっとりとした落ち着いた品の良さが特徴です。絽界のスタンダード?
平絽(ひらろ)
主に男性やお坊さんがお召しになることが多いようです。
紋付きの羽二重同様に撚っていない「平糸」を使うことで、光沢をだしたものです。
駒絽と比べ艷やかです。羽二重に絽目ができたと思うとよいでしょう。
絽縮緬(ろちりめん)
ちりめん用の強撚糸をつかった絽
壁絽(かべろ)
壁糸(撚糸の種類)を使った絽
など、様々です。
紗の種類
糸の種類による品種の違いはありますが、絽ほど一般的ではないと思います。
駒糸をつかった駒紗(こましゃ)
撚っていない平糸をつかった平紗(ひらしゃ)
など
絽なの紗なの?
それより絽や紗のどちら?と定義に迷うものもあります。
名前は当社で織っている生地に名前でつけたもので、正式名などは分かりません。
紗は、となりあうたて糸を絡ませて隙間を作る技術
絽は、平織りの後に隙間を作る技術
のように考えると、タテ・ヨコのデザインは自由となります。
6.紋紗とは?
紗の派生版で、柄を織り込んだものを紋紗(もんしゃ)といいます。
紗のからみ織りで透ける部分、平織りで透けない部分をつくることで、柄を表現します。
紋紗も、地(全体的に見て多い方)が紗なのか平織りなのかで呼び方が分かれるようです。
顕紋紗(けんもんしゃ)
透ける部分はからみ織りで織り、柄の部分を平織りにして透けないようにします。柄が浮き出たように見えます。
絽紗ストールの紋紗はこちらです。
透紋紗(すきもんしゃ)
全体が平織りになっていて透けずに、柄の部分をからみ織にして透けるようにしたものを言います。(当社では織っていないので写真がありません)
7.絽や紗を着る時期やシーン
まず温暖化が進んでいることや、着物離れもあり、以前と同じように、着用時期を厳格に守る、ということは薄れてきている気がします(もちろん厳格を重んじるシーンや業界もあります)。
それはさておき、ここでは一般的に言われている着用時期やシーンを記載したいと思います。
『絽』
6月中旬頃から8月末頃
絽はフォーマルなシーンにふさわしい生地で、留袖や訪問着、色無地、小紋、喪服などといった正装用の着物に用いられます。ただし、経絽(たてろ)は若干カジュアルよりになるようです。
『紗』
7月上旬から8月まで
紗はカジュアルからセミフォーマルと言われています。しゃれ着という解釈をすると良いかもしれません。
『紗袷(しゃあわせ)』
5月中旬から6月までと、9月の1ヶ月間。
着用シーンは生地の種類もありますが、先染めなのか後染めなのか。染柄が適しているかなどもあると思いますので、その道のプロにご相談するのが良いかと思います。(わたしたちは織物工場なので少しその道からはすこし外れます)
8.羅(ら)とは?
絽や紗のことを知ったら、もうひとつのからみ織「羅(ら)」も知っていただきましょう。
羅とは、絡み合う2本のたて糸を、さらにとなりあう左右のたて糸と交互に絡み合わせて織った織物です。
紗や絽よりも起源が古く正倉院供物の中にも見ることが出来るようです。
現代では、人間国宝・北村武資氏が復元したことで有名です。
たて糸が複雑に絡み合っていくので、筬(織物のたて糸をそろえ横糸を押し詰めて織り目を整えるための器具)が使えないため、機械織りはできません。
※写真は後日アップ。
9.模紗(もしゃ)・擬紗(ぎしゃ)?
外観が目が開いているけど絽や紗でないものがあります。
これを模紗・擬紗といいます。
これらは外観が紗に似るように、織った平織りの織物です。
この生地が生まれた背景としては、からみ織りが特殊な装置を使うことや、準備工程で煩雑さが生じることから、量産しづらいものである、ということからのようです。
つまり、絽と紗の魅力である通気性を得ようとした量産できるようにした生地のようです。
よって、本当の紗を「本紗(ほんしゃ)」と呼ぶこともあります。
よく見ると違うのですが、外見から、絽です、紗です、と言われる事もあるようですので、正しく確認したほうがよいでしょう。
10.新しいストールの絽と紗とは?
誕生の背景
本来、着物やお坊さんの衣など衣類として用いることが多い絽と紗。しかし、現状、絽と紗を着る方は大変少なくなっています。
着物を着る方が少なくなり、さらに絹の着物を着なくなりました。そして、わざわざ着用時期の限られる夏物を用意する方も少なくなり、着物はカジュアル化が進み夏は浴衣になりました。
つまり、産地の生産量は激減しています。
そこで、私たちは絽や紗が新たに生きる道はないか(きっとあるはずだ!)模索し、たどり着いたのがストールやスカーフなどでの用途です。
絽や紗の特徴である
通気性がよく、清涼感や透明感に溢れ、軽くて持ち運びに便利
絹の特徴である
肌触りがよく、どなたにも安心で、その光沢から顔周りを明るくできる
そこに着目し、着物生地の4分の1以下に軽量化した今までにない(と断定できませんが)ストール向けの絽と紗の生地を開発しました。
そして、その新素材を生地として販売することなく、自社のシルクストールブランド「絽紗」としてだけ使っています。
つまり、世に流通していない生地から独自可した完全なオリジナルブランドです。
あたらしい紗は、着物の生地以上に透明感を増して、まとう方の軽やかさを引きてます。
軽いのにハリがあり立体感をだせるのが特徴です。
あたらしい絽は、かろやかなドレープと、やさしい肌触り、艶やかさで優雅さを演出します。
あたらしい紋紗は、ひと目で他との違いを伝えるだけのオーラーを放ちます。
生地に、着物DNAが受け継がれているので、どのストールも着物との相性は抜群。
コンパクトなストールは、首周りが寒い時に品を損ねないので大変便利。
大判ストールは、着物のショールとしても使えるだけでなく、普段使いもできます。
和柄を着物に合わせたり洋服に合わせたり。
華やかな洋柄やシックなストールを着物に合わせたり、楽しみ方色々です。
シルクストール絽紗の特徴
私たちは生地工場ですので、上質な素材を織りなすことに特化。
その新素材を全国の優れた染職人と直接連携して染めていただいた唯一無二のストールです。
ラインナップは多種多様。今の多様性が求められる時代に、自分の好みの一枚をお探しください。
11:絽と紗にふれたい(無料)
このページを読み理解を深めたつもりでも、「実物を見ていないから違いがよくわからない」という方が大勢いらっしゃいました。
そのために生地サンプルの無料配布もしています。絽紗シルクストールのパンフレットには、ひとつひとつ丁寧に生地を張り、普及活動をしています。
生地に触れ、絽と紗をより深く知って、着物はまだ無理でもストールからなら・・いづれ絽と紗の着物を着たい、という人が一人でも増えてくれればと思っています。
12:分からなかった時の相談の窓口
何でも気軽にご相談ください。織りのこと、着物のこと
反物(白生地)販売していますか?などの問い合わせ、でも構いません。
むすびに(お願い)
ご覧いただき勉強になった、よく分からなかった、もっとこんなこと知りたいなど、ご感想をお寄せください。工場としてとても励みになります。
また、よく分かった!という方はぜひ本ページをシェアして、絽と紗を普及していただけると嬉しいです!着物ファンが増えますように!