東京国際映画祭での俳優の齋藤工さんの衣装に絽紗シルクストールを選んでいただきました
※なお、私どもからの着用依頼はしておりません。
2019年 東京国際映画祭<外部リンク>
国際映画祭という舞台で、赤の和柄ストールさらっとまとい、日本文化をPRしてくださいました。
ドレッシーな服装に、さり気なく日本を演出してくださること大変感謝しています。
かっこいいだけでなく、日本文化を大切にしてくださる、そんな姿勢に感謝です。
もちろん有名な方に着用いただけたことは嬉しいですが、フォーマルな場面でお選び頂いたことが何より嬉しいです!
感極まって色々と目指してきたことを書いてみます。(長いです)
そもそも、絽紗シルクストールとは?(他のストールの違いは何か?)
ストールとしての違いを見定めていただくのは消費者の方ですが、ブランドの立ち位置をまずお伝えします。
絽紗は、
- わたしたち100年白いシルクしか織ったことがない白生地工場が立ち上げたブランドであること
- わたしたちが織ったオリジナルの「絽」と「紗」の生地のみを使用していること。
- その生地は他に販売していないこと。
- シルク100%で、全て後染めなこと。
- 染は自分たちでやっておらず、日本全国の染職人に依頼していること
- 作ったストールは直接販売のみしかしていないこと(百貨店は委託販売のため場所借りという位置づけ)
違う伝え方をすれば、
- デザイナーが生地を仕入れて商品にしているわけでもなく
- スカーフメーカーが企画して、問屋さんを経由して小売店で販売しているわけでもなく
- 国内や海外から仕入れてきた商品を、販売しているお店でもありません。
よく言う「ファクトリーブランド」という位置づけです。
ただファクトリーブランドというと、今まで培ってきたモノづくりがあり、下請けから脱するため、消費者に技術や存在を伝えるため、自社オリジナル商品を発表していくことが多いと思います。良質な商品を消費者にとどくまでの流通を短くすることで、価格も抑えれるというメリットもあります。
ここでちょっと私たちが違うのは、一般的には「商品」に近い立場やノウハウを持っている工場がすることが多いと思います。すでに下請けとして、ほぼ商品まで作っていて違う名前で世にでている、ということです。
わたしたちは、商品とはかなり遠い位置にいました。本業が白生地工場です。白生地とは着物や法衣などの高級呉服になる染めるための絹の反物を言います。素材です。
これを京都に出荷するだけの受注生産の工場です。機屋(はたや)と言ったり、織元(おりもと)といったりもします。すわなち・・・
- 素材しか作ったことがない
- 頼まれたものしか織っていない。
- 染めたこともない。
- 商品を作ったこともない
- 消費者に販売したこともない。
まさに、ないないづくし、という訳です。
そこからスタートしたのが「絽紗」なのです。
では実際商品としては、何が違うのでしょうか?わたしたち目線で書いてみます。
素材ブランドになりたい
シルクストールを作っていますが、私たちは生地を織る工場です。
生地の良さを伝える為の一つがシルクストールであり、やはり一番のこだわりポイントは私たちが織った生地です。はっきり他と違う素材感。これこそが生命線です。
ですので、絽紗はシルクストールなのですが、絽紗の素材ってすごくいいよね、と素材にフォーカスを当ててもらえることを、一番目指しています。
目指したのは、フォーマルでも使えるようなストール
一般的なストール、今の時期で多いマフラーというと、カジュアルなイメージがあり、どうしてもフォーマルな場面では使いづらいものです。だから、私たちの隠れた目標の一つとして、自分たちの生地にしか表現できないモノづくりを目指そうとしていました。
それを、わかりやすく言えば、フォーマルでも使えるようなストール、です。
そもそもストールをしよう、と思ったのは織物工場としては敷居が低いこともありますが、シルクなら何より繊細な首元をやさしくケアできるし、五泉の美しいシルクの織りならば、顔周りを美しく明るくできる、と思ったからです。
着物での優雅さをストールにそのまま持ち込みたい
絽と紗は一般的には着物で用いる織物です。絽紗は、わたしたち横正機業場がその「絽」と「紗」をストール向けに独自に技術開発し軽量化した完全オリジナル。しかも白生地工場なのに、その生地をどこにも販売せず、自分たちで全国の染職人と連携し商品化し、五泉のシルクをPRするためのストールです。
なぜ、生地で販売しないのですか?
よく聞かれることです。
それは生地で販売すると今までの白生地のように五泉の名前は消えてしまうからです。それでは新しい取り組みも意味がない。苦労してでも自分たちで考え行動し、消費者の方に五泉シルクを伝えることが次の100年を作るうえで大切と判断した(アドバイスを頂いた)ためです。
さて、今、夏の着物といえば・・「浴衣」ですよね?たしかに今はそうかもしれません。
でも絽や紗だって知ってほしい、とブランド名を生地の名前をつなげた「ろしゃ」にしました。
その絽や紗。今は生産が激減しています。考えてみてください。着物着ないし、絹も着ないし、夏は浴衣だし、マンション住まいなどになると着物をしまう場所がない、ということで、季節に応じた着物を用意する方は大変少なくなりました。
わかりやすくいえば、絽や紗に存在感なし、、、になりつつある。
ちなみに、絽と紗って何?って人はこちらを読んでください。このサイトで一番アクセスが多いのです。「絽」で検索するとgoogleの先頭にきます。
「絽」と「紗」の魅力を見つめ直すところから始めてみる
さて、その絽や紗の魅力といえば、やはりその品の良さや、通気性の良さと思います。夏でもベタッとせず、サラッとなでるよう肌触り、風通しがよく快適に着れる。
まさに日本人が生み出した知恵でしょう。それがどんどんなくなるなんて寂しい。
着物でなくたって生地は活躍できるはず!っということで、軽いのにハリがあって、なめらかなドレープが生まれる生地をひたすら追求してきました。
出来上がった布は、清潔感に溢れ、なめらかなドレープを生み出し、表面がサラッとして美しい。これを染め上げたらどんなに美しくなるだろう、と思わせるものでした。
シルクを見直す=お肌に一番近くよりそうものでありたい
私たちは絹織物工場です。今も昔もシルク100%。シルクしか織ったことがありません。
今はシルクにふれたことがない人もたくさんいます。それだけ馴染みのないものとなりました。たしかに化学繊維と比べればシルクは少しお高め、かもしれません。手入れに手間がかかるのかもしれません。ただ、いいところだってたくさんあるのです。
- 成分はたんぱく質でお肌に近い繊維ですから安心です。
- 糸が柔らかいのでお肌に触れてもやさしさを感じます。
まとう方があってこそ、の存在。オシャレとして、防寒として、日よけとして、色々目的はあると思いますが、首にふれた時に、「優しさ」を感じれることは、とても幸せなことだと思っています。だから、その優しさを体感できるものとして、まだまだシルクは選ばれる存在でいれるはず、と思っています。
そして、やさしいだけでない。やわらかい天然の輝きを発するシルクは、化学繊維では作り出せない自然のやわらかさを感じます。媚びずに自然体でいれるのです。
すべてはまとう方のため。日本の、着物の、織りの技術や心を凝縮する
ストールを作るにあたり、どこに私たち織りの工場の技術力を発揮すればよいのだろうか。
これを考えた時、当初は「薄さ」だと思っていました。軽ければ技術力をPRできる!と。しかし、やってみると薄さ勝負をした所に全くの意味がありません。
大事なのは、まとう方がどう美しく見えるか?であり、そこに技術が使われなければならない、ということです。
そう思い直したとき、染めた時に美しい布であり、まとった時にうっとりするような布、であることが大切だと感じました。
そして、私たちの本業は白生地工場です。つまり染をするための素材です。そこを突き詰めていくと、私たちがやらなければならないことは、デザインを表現するためのキャンバスとして私たちは何ができるか?ということです。
生地と染を一体感させるため、細部にこだわる
「限りなく美しい一枚の布」のため少しでも縫い目を減らしたい。通常は大きな布をカットし縫うものが一般的ですが、ストールの幅に合わせて生地を織り、生地の耳は限りなく薄くしました。このように通常はフォーカスされませんが、美しさを際立たせる細部のこだわりも絽紗の特徴です。
たて糸、よこ糸、糸の撚りの絶妙なバランスをさぐる
生地作りというのは奥が深いものです。例えば糸が何本という規格があったとしても、工場が違えば風合いが全く異なります。まさに生きているといっていいでしょう。
- 織り機の形状が違えば、できる風合いも違う。
- たて糸のハリが違えば、描きだすなめらかさも変わってきます。
- よこ糸の密度が違えば、触った時のやわらかさも変わってきます。
- 糸の撚りも違えば、見た目の風合いも肌触りも変わってきます。
つまり、色んなもののバランスで成り立っていて、そこに正解はないことが分かりました。
生地(素材)としての役割は結構あるものだ
生地に強いこだわりを見せましたが、自分勝手な生地だけでは商品になりません。商品にするためには白いキャンバスに、色が描かれていかなければなりません。そして、ここがまた奥が深いと感じたところです。
商品にする過程でも、色やデザイン、染め技法、などの組み合わせ方が色々で、相性があるということです。
例えば、単色のストール。美しさを際出すには、一枚一枚手染めよりは、反物で染めたほうが色ムラもなく、仕上げもきれいで、美しさは際立つことが分かりました。
逆にナチュラルさを出すなら、手染めで多少ムラ感があるほうが味がでることも分かりました。
商品をイメージすると、表面的なデザインだけでなく、このぐらいの軽やかさで、やさしい肌触りで、このぐらい光沢感で、など、デザイン以外の要素もまかなうのが生地です。
しかし、世にあるストールの多くは、すでにありふれた生地を使っている。海外の超有名メゾンですら同じ、ということに気づきました(高級ブティックに通いました)。
つまりストールの為の素材というものはほぼ成熟しきっている、ある選択肢の中からしか選べない、ということです。
そこに大きな違いがあることも分かりました。
結局のところ、研究開発を発表しているようなものである。変化・進化していることを表現することが絽紗である。
色々と商品開発を試行錯誤していくと気づくことがたくさんあります。
今までプロダクト・アウトの発送しか考えていなかった工場ですが、商品を通じて、消費者と向き合うことで、逆からのプロセスであるマーケットイン(必要とされるものを作る)も大切であることが分かりました。どちらがいいとかではなく、両方を一緒に考えれることが、絽紗の特徴と感じたのです。
そして、これこそが絽紗の強みだと分かりました。普通はある生地からしか選べない。でも私たちは、自分たちで生地を改善したり、なければ欲しいものを作れること。これこそが絽紗の強みであると感じました。
上質であることは、自由であることにつながるのではないか。
絽紗とは?と聞かれたら、自分たちの生地であれば、絽紗です、と言っています。
これが何を意味するかというと、素材の上質さは絽紗であることが保証し、そこに描く世界は自由ということ。ストールブランドというより素材ブランドのようなものになりたい、とはこのことです。
そして、ベースの素材がしっかりしていれば、よりフォーマルな場に近づいても、今回の斎藤工さんのように品格を保てる。すなわち表現の自由が生まれるのではないか?とも考えています。
絽紗はどこを目指すのか
今は私たちで企画していますが、グラフィックデザイナーやフォトグラファー、著名人、色々とのコラボレーションにだって広げることはできると思います。
この時、当初のルールから逸脱し、生地だけで販売するということはしたくないと思います。どんな著名なメゾンなどからの依頼があったとしても、私たちの存在価値を守り、対等な立場で対話をする、そんなブランドにしていきたいと思っています。(あればの話ですよ)
それこそが絽紗が目指す世界です。
絽紗とは「あたらしい一歩」を踏み出すこと
今回の着用も、きっと絽紗の光沢感やストンとしたオチ感の美しさは、国際映画祭の場面で着用しても品格を損なうことはないと判断いただけたのでは?と思っています。
また、日本の着物柄を大胆にあしらったROSHA-KIMONOは、世界に日本をわかりやすくするものと思って頂けたのかも知れません。
ただ、一般的には女性向けと捉えられるストール。これを男性がさらっと着こなすことにセクシーと感じました。(斎藤工さんだから・・ですが)私からみると新しいチャレンジと感じました。
私たちも微力のため失敗しながら、少しずつ前進することを目指しています。
何か新しい一歩を簡単に踏み出せる人と、そうでない人がいます。
私たちはどちらかというと「後者=ふみだせない人」と思います。
そのような迷っている気分のとき、不安を感じているときに、絽紗をつけて欲しいと思っています。
背筋がすこしピンと伸びて心落ち着きます。
一番近くで、やさしくて頼れる寄り添えるストールでありたいです。
絽紗の挑戦は続きます。