新潟県五泉市は日本屈指の繊維のまち
五泉市は、婦人用ニットの生産高が日本一の「ニットのまち」として知られていますが、実は「日本三大白生地産地 」 の1つという顔も持っています。実は このことは 、悲しいことに地元五泉市民にもほとんど・・知られていません、涙。
絹織物に最高の環境といえる清らかで豊かな水資源と適度な湿気を利用し、京都の丹後、滋賀の長浜とともに全国に名を馳せました。しかし、現在は着物離れ、絹離れもあり年々生産高は減少し、残る機屋はあと3軒しかありません。この実情すらも知られていないと思います。
もちろん理由は多くあり、五泉の絹織物は「白生地(しろきじ)」という着物や法衣を仕立てるための染める前の白い「素材」ということ。また五泉から京都に出荷し五泉の中で白生地を見る機会がないこと、産業衰退とともに雇用で貢献することもできず、白生地だから何もできないと意気消沈してしまっていた事もあります。
五泉の絹織物の実力とは・・
ただ、このような状況となっても職人気質は失わずものづくりには誠実です。織りなすシルクの美しさは衰えを知ることはありません。
男性の黒紋付に用いる表地の五泉羽二重、夏の着物である絽や紗、法衣や有名神社の幕など技術力が要求され海外での生産が難しく、ごまかしのきかない上質なシルクを今でも丁寧に織り続けています。
令和の大嘗祭で用いられた天照皇大神の神御衣 「繒服(にぎたえ)」という特殊な絹織物は、私たち横正機業場が織りを任せていただきました。
全国の多くの和装産地が化学繊維や洋装生地へと移っていく中、五泉は浮気することなく、今でも白いシルク一本で勝負し続け、今でも貴重な日本の伝統衣装を支えていることは、まさに影の実力者といえるべき存在なのかもしれません。
自ら輝き、清らかな心で
この度は五泉の様々な種類の白生地を選び、新潟県の十日町市で染色し、「光と水のポケットチーフ」として仕立てさせていただきました。
ぜひ美しいシルクを胸元にそえて日頃からドレスアップしていただき、シルクの自然の光のような晴れやかで、五泉の水のように清らかかな日々を送って頂きたいと思っています。
シルクの光
シルクは光の角度で輝きが変わる宝石のような繊維です。理由は繊維の断面が2つの三角形になっており、その間隙に空気が存在することにより,繊維に入射した光がプリズム効果を発揮し艶やかな光沢を醸し出すからです。人工的ではない自然の輝き、見る角度によって変わる変幻自在の美しさこそシルクの特徴です。
五泉の水
またこの度ポケットチーフに使わせて頂いた生地は、五泉の清らかな水を用いて織っております。五泉が絹織物産地として栄えた理由には水が大きく影響しています。五泉の水は鉄分が少なく長時間水に浸していても糸が変色しません。この特徴を活かして「濡れ緯(ぬれよこ)」という、よこ糸を水に濡らして織るという伝統技法が生まれました。
よこ糸を水に濡らして織ると、隣り合うよこ糸とよこ糸がくっつき密度が高くしなやかな生地になります。しかし、良いことだけではありません。織っている時に糸の交換が遅れると乾燥してしまい密度が変わり染めた時に色の違いがでてしまい商品となりません。また、織るためのよこ糸も作り置きもできず織る直前に準備しなければなりません、また織り上がった生地も摩擦に弱く扱いが難しいです。
このように美しい生地を織るために多くのリスクをとらなければならない技法(諸刃の剣)といえるでしょう。しかし、濡れ緯を用いた生地のしなやかさは別格です。五泉はこの人が嫌がる・難しいことを研鑽し、真似できない強みと変え生き残ってきました。 まさに五泉の織物は、水を極めたり、です。
エコの取り組みについて
着物のエコ精神にのっとり商品についても見直しています。
この度のポケットチーフのサイズは主に40センチ四方です。その幅の反物を選び生地の耳まで使って製造しています。生地の耳部分はほつれないため縫わずに残しています。よって縫う箇所は2つの辺のみです。
これは私たちが古いシャトル織機というものを利用しているためです。洋服で主に用いる巾が広く織るスピードが早い近代の織機などではこの耳がありません(※耳を作るのも一部あるそうです)
ジーンズなどではこの「耳」を「セルヴィッジ」と呼び ヴィンテージ・デニムとして珍重しているそうです。
私たちは、このような発想を取り入れ、あえて耳まで活用することを推進しています。このポケットチーフだけでなく、ROSHAのシルクマスクやその他商品でもできる限り無駄を出さないよう必要な幅で反物を織ったり、耳も商品の一部として使うことで縫製の手間を減らし、人の手が入らないことで生まれる美しさを求めています。
ご理解頂きたいこと
しかし、消費者の方に理解頂くべきこともあります。反物を精練したり染めたりする過程で、耳に針金を通して吊るす工程があります。この際、耳に数ミリ程度の小さな穴が開いてしまいます。
この穴をどうするべきか悩みましたが、あえて隠さないことを選択しました。非常に近くまで寄らなければ人目からは分かりづらく、またポケットチーフの使い方で隠すこともできます。「こうでなければならない」という選択肢をすてご理解いただき協調していくこともこれからの時代に必要なのではないかと思っています。
縫製について
なお縫製はスカーフの産地である横浜にて行っています。高級なスカーフの縫製は手巻きで、縁がふっくらとしているのが特徴です。ただ手巻きをする職人も少なく時間も費用もかかるため、この度は千鳥巻きを採用しました。千鳥巻は手巻きをイメージしてミシンで縫えるようにした特殊な縫製です。
Made in Japan ?
生産過程をお伝えしておくと、
企画・製織:横正機業場( 新潟県五泉市)
精練:五泉精練(新潟県五泉市)
染色:シルクワーク(新潟県十日町市)
縫製:複数の工場(神奈川県横浜市)
パッケージデザイン:ファジカ(新潟県新潟市)
ただ、原料であるシルクの糸はブラジル産と中国産です。
現在のシルク糸の主な生産地は中国が9割、ブラジルが1割と言われています。エルメスのような世界の超一流メゾンはブラジルで生産されたシルク糸を使っていると聞いています。私たちも日頃、着物や法衣など高級衣装の生地を手掛けているため、たて糸にはブラジル産を、よこ糸はブラジル、中国産両方を使っています。
本題:なぜ、ガチャ?
この度、記念品としてご依頼を頂いたタイミングから、納品までのスケジュールを考えた時に、新たに一から生地を織って染めて・・という事は難しい状況でした。
そこで、工場にあるポケットチーフに向いてそうな生地を集めた事がきっかけです。誰にどの生地のポケットチーフが届くか分からないなら、ガチャ(のような)にしてしまえ、という発想です。
せっかくなら、生地の個性に合わせて色を染めたい、ものづくり精神を抑えられず、スーツやジャケットなどに合わせやすく日常使いしやすい色を妄想し揃えました。シルクだからといって高貴な雰囲気に寄せるのではなく、少しくすんだ色合いで大人の艶っぽさや遊び心をイメージした色にしています。
コンセプトがガチャなので、どなたに何色のどの生地がいくか分かりませんが、素敵な出会いになってくれることを願っています。
チャコールグレー
スーツの定番のチャコールグレー。同系色でセットアップしたり、ベージュやグレーのスーツやジャケットに合わせてもかっこいいと思っています。生地は織り柄をいれたものや、透け感の強いものなど、クールなポケットチーフをイメージして仕立てました。
ネイビー
高貴な色でありながら明るい印象を与えるネイビー。グレーをまぜチャコールっぽいネイビーとも言える色に仕立てました。透け感のある紗の生地を用いることで、軽やかさがうまれスタイリッシュさをだしました。
オリーブグリーン
グレー、ネイビー、ブラウンなど、幅広い色合いと相性がよく様々なスーツやジャケットの差し色として活躍しそうなオリーブ。またカジュアル時にカーキやグリーン系のパンツとリンクさせても似合いオシャレと思います。織りによって生まれた表情豊かな生地が、個性を際立たせているところもポイントです。
ライトグレージュ
ポケットチーフの定番といえばホワイトですが、正装感がつよく普段使いし辛いと思うことがあります。そこで白ではなく少しグレーよりに、またグレーより淡くやさしいをプラスした絶妙な色合いに仕上げました。生地は平絽という男性の夏の黒紋付にも用いる正装生地。サラッとしていて、かろやかで艷やか。五泉らしい一枚にしたてました。
グレイッシュブルー
ROSHAのキーカラーは五泉の清らかな水であるブルー。ブルー系でありグレーも混じった落ち着いた色を表現しました。ダーク系のスーツには清潔感の中にも芯の強さや柔らかさが感じられ、ブラウン系のジャケットなどでは少しの清涼感が、グレーのジャケットなど同系色にまとめるのもスッキリしていいですね。
ラベンダー
少し華やかで落ち着きがある色合い。胸元に差すことで、花のようにほのかにフェロモンが香り、やさしさを醸し出すかもしれません。
ピンクベージュ
ピンクの可愛らしさ、ベージュの柔らかさをミックスした色合い。ベージュ系のジャケットでも、ダーク系のスーツにも合わせやすく、あなたの心の中の乙女心を引き出し、なんだかいつもと違う大人可愛い印象がうまれます。
交換について
この度はガチャとさせて頂いているので、基本的には運命の出会いを大切にしていただきたいのですが、どうしても違う色の方がよいなどの場合は以下LINEにご連絡頂きたいと思います。使わないで手元に置いておくよりは使いたくなるものを手元において頂きたいと思っています。
LINEをされていない方は、info@rosha.jpへのご連絡でも構いません。
さいごに
この度は、五泉商工会議所の青年部さまから「第44回北陸信越ブロック大会五泉大会」の記念品としてご拝命頂きました。花のまち、ニットのまち、と言われているなか、五泉市の中では日陰者ともいえる絹織物にフォーカス頂けた事に大変感謝しております。
光と水のポケットチーフは、私ども横正機業場が2016年に立ち上げたファクトリーブランド「ROSHA」のエッセンスを凝縮して仕立てました。
前述したように、五泉の白生地はあくまで素材で京都に出荷して商売としては完結を迎えていました。しかし、それでは次の100年を作り後世に技術を残していけないと、自らの可能性を信じ、より白生地を愛し、白生地からシルク商品まで愛でることで、自ら輝くことにチャレンジしてきました。
もしこのページをここまでご覧頂いているようでしたら、私たちの軌跡でもある「ROSHA」をご覧いただければと思います。