もともとシルクストールブランドである 絽紗のお客様の多くは女性です。そのお客様より、肌荒れがひどいので何とかできないでしょうか?という相談がマスクを作ったきっかけです。
当時、マスク不足で不織布マスクを何度も洗ってつけることもあり、不織布の表面の毛羽立ちはひどく、それでも着用せねばならず肌が摩擦でボロボロになり肌荒れがひどい、そんな声を多く聞きました。
絽紗のシルクマスクを開発する上で考えたことは、「つけたくなるマスクを作る!」です。また女性をイメージしたレディース向けに特化して設計したマスクがあっても良いのではないか?という考えもありました。多くのマスクはサイズの違いはあれどほとんど男女兼用です。マスクをつけるならアクセサリーのように今日は何にしようと選べたり、コーディネートを考えたり、美しく見えたら、など女性がうれしいポイントを凝縮したマスクができたら、マスクをつけることが楽しくなるのでは思ったのです。
肌も心も潤い、日々の活力になる。100年シルクだけを織り続ける 私たちだからこそできるシルクのマスクとは何か?開発期間2週間、寝る間も惜しみ探求したシルクとマスクへの想いを綴らせていただきました。
今回は「美しく見えるシルエット」編です。
洋服と同じように、自分の顔の形にあうマスクとは
自分の体型にあうものが大切です。マスクも同じで自分のフェイスラインにあうものが、美しく見えるのではないでしょうか?。
たとえば、不織布マスクや立体マスクで、エラのように両サイドが広がる場合があります。生地が硬かったり、サイズが少しあってなかったり、ちょっとしたことだけで見た目の印象を損ねてしまうのは残念で仕方ありません。また、そこがウィルスが侵入する要素にもなります。
素の自分に近いことこそ、美しさの極みと位置づける
一つはご自分のフェイスラインに沿うということです。なるべく本来のご自分に近いかたちで頬を撫でるようにマスクが覆うことができれば美しく見える。
そのためには「顔を包む」ということは立体で考えねばなりません。鼻・顎・耳を結ぶ三角形をイメージするとわかりやすいですが、その三点をカバーしつつ落ちないようにする(ホールドする)のです。
収縮性のある編み物であれば顔のラインに沿うのでしょうが、私たち織物工場の「織物」は基本的には収縮性はありません。どうやって包み込むのか?が課題でした。
鼻・顎から耳に向かって狭まっていく形が一般的です。つまりよくある立体マスクのような形状になります。しかし、その時の課題は頬部分のゴムが通る部分の高さが決まっているのでつけて見なければ、合うのか合わないのか分からない、ということです。
ニットのマスクだとフィットするけど毛羽立ちとウィルス遮断性が心配。ピッタマスクなどのポリウレタンでできているマスクだとフィット感はいいが、化学繊維がだめな方はつけれない。となります。シルクの織物でどうホールド感を実現するかが課題でした。
知られていないシルクの丈夫さ・滑らかさを知るものだけがたどり着ける
私たちの答えは、あまり知られていない「シルクの丈夫さ」を利用することでした。上の写真のように紐が通っている部分を寄せるとヒダができつつ生地が狭まります。この状態でマスクをつけると顔のラインに添うのです。
これは細い糸から出来ているシルクの滑らかさがあってこそできるものです。またこれだけヒダを寄せても生地が一切よれない丈夫さもシルク本来の強さがあるからです。他の天然繊維では同じようなことは真似できないでしょう。
ドレープが人の心を魅了するドレスのようなマスク。
シルクの自然な眩い光沢はまだまだ化学繊維では真似できません。見る角度によって、輝きが違うのは繊維の断面が三角形で、光がその中で乱反射するから。それが自然の輝きの源なのです。
しかし、それだけがシルクの魅力ではありません。シルクの美しさはドレスをイメージすると分かると思うのですがそのドレープです。 自然にできたヒダから生まれる自然なシルエットにこそ人は心を奪われるのだと思います。
そのドレープをマスクで表現したい、というのがありました。縫製でヒダをつくるとそれは人工的なものであり固定です。
その点、生地を寄せる度にそれぞれでき方の違うドレープは自然のもの。人の表情が毎日違うように、マスクの生み出す表情も違い、あなたに寄り添います。
机上の計算ではなく色々試して分かった絶妙なバランス
ただこのドレープ、どの布でも出せるというわけではありません。天然繊維唯一の長繊維であるシルクは糸では強靭な部類。また細い生糸を束ねて密接に織り上げることでこそしなやかさが生まれ丈夫なのです。
また私たちは織物工場、色んな厚さ、重さ、表情のシルクの織物を織っています。短期にマスクを作らなければならない中で、多くの生地を色々試してつけ心地や美しさを比較するといった他ではできないことをさせて頂きました。
少しでも生地が厚いと硬すぎで滑らかなドレープが出ない、薄すぎると生地の美しさが薄れる・安っぽさがでるなど「絶妙」とはこのことです。
シルクには、シルクという素材の相性を改めて知った
上記のように生地を寄せてヒダを作りフェイスラインに沿うようにするとゴムでは強度的に問題です。ゴムが強いものになれば耳に負担がかかります。マスクで嫌なことNo1は、耳が痛くなることと言われており、この課題をクリアすることが必要でした。
それ以前にシルクのような美しい素材にゴムだと素材感のバランスがあいませんでした。女性向けマスクとした時に、耳にかける部分も品よく美しいものにしたい!そう考えた時、絽紗の姉妹ブランドであるシルクのベビーウェアブランド「しろずきんちゃん」で使っていたシルクの編み紐を思い出しました。
赤ちゃんのお肌にふれても安心で柔らかい肌触り。赤ちゃんがひっぱっても滑りづらく締め付けづらくするようにと考えたシルクの編み紐です。同じ新潟県五泉市の田中刺繍さんにオリジナルで編んでもらいました。この紐を使ったら同じシルクでマスクとの相性も抜群。シンプルエレガントが実現できると思いましたが、紐でどうサイズ調整するかです。
糸の結び方には長けている 織物工場でよかったと思った瞬間
紐でサイズ調整をするにはいくつか方法があると思います。
- 都度自分で結んでもらう。これはマスクの利用用途から難しいです。
- 一度結んだ状態を作ってからほどかずに何度も使う。これもマスクを外すときつける時に負荷がかかります。
- アジャスターを使う。これも良いのですが、シルクにプラスチックなどの異素材が入ると浮いてしまい、上品な紐との相性もよくなくできれば避けたいと思いました。
そう考えていくと、紐の結び方でなんとか出来ないか?となるのですが、気づいたら私たち織物工場では色んな糸の結び方をしており、サイズ調整が簡単にできる結び方を職人がしていました。
紐の片側だけが動き、もう一方は動きません。つまり結び方でアジャスタいらずになります。またこの場合、片側の紐がどうしても長くなってしまうのですが、それが耳から少し垂れ下がりアクセサリのように上品な様を生み出します。
マスクは化粧の一部、鏡の前でつけるマスクに違和感はないはず
このようにシルクの紐もアクセサリーの一部で考えると、マスクを鏡の前でつけるということは自然な流れではないかと思いました。
紐タイプの弱点は、着用時の左右のたれた紐の長さがアンバランスだと不格好に見えてしまう、という点です。また都度サイズ調整せねばならず面倒なことより簡単な方がよい、飲み物など飲む機会が多いから着けたり外したりが簡単なゴムの方がよい、という意見もあります。
ただ女性の行動を考えてみればお化粧は鏡を見ながらします、マスクだって着用時に鏡の前で紐の長さを調整して顔につけることに違和感はないのではないか?と思いました。逆にご自分の顔につけるものですので、アクセサリーと同じように扱って頂ける方がよいのではとも思います。もちろん慣れてくると鏡がなくても問題ありません。
今回はシルエットに関わる点をまとめてみました。